実施レポート 10月27日開催「経営戦略としての男性育休・女性活躍」家族・企業・国はこう変わる

「ライフステージが変化しても、希望通りの働き方ができる」という未来のアタリマエに向けて、企業横断で考えていく場をつくりたい。そんな取り組みの第一歩として、2020年度にリクルートが立ち上げた「保活総研」。第2回となる今回は、(株)ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室淑恵さんを講師に迎え、男性育休義務化の法改正を直前にひかえた企業の人事・ダイバーシティ推進担当者に向けたオンラインセミナーの様子をお届けします。


今回のオンラインセミナーでは、小室淑恵さん(以下、小室)より、「経営戦略としての男性育休・女性活躍」をテーマにお話をいただきました。日本の社会課題「少子高齢化」対策として大きなカギを握る、男性育休と女性活躍。法改正に向けた国の最新動向を踏まえ、企業を取り巻く環境はどのように変化するのか、企業が留意すべきポイントや活かし方などを伺いました。

「経営戦略としての男性育休・女性活躍」家族・企業・国はこう変わる

小室2018年の働き方改革関連法案の成立により、労働基準法史上初めて労働時間に上限が設けられました。これをきっかけに「決められた時間の中で高い成果を出す」ことを目標として企業の意識が変わってきた反面、家族との折り合いが悪く家に帰りづらい従業員の存在も浮き彫りになっています。その原因の一つとして、産後における男性の育児への関わり方が非常に大きいことが分かってきました。特に産後すぐの時期に子育てに関する感情を共有できたかどうかが、その後の夫婦関係の大きな分かれ目となるようです。
今回は、短い時間の中で高い生産性を生み出す集団づくりのヒントをお話しさせていただきます。


そもそも、なぜ男性育休・女性活躍・働き方改革が必要
男性の育児参画、なぜ「休業」まで必要?
法改正に向けて取り組むべき全体像と優先順位
女性活躍に成功している企業に共通した取り組み

そもそも、なぜ男性育休・女性活躍・働き方改革が必要?

小室:
・「決められた時間の中で高い成果を出す」必要があるのは、特別な事情を抱える人だけでなく全従業員であること。
・多様な人材を活用して初めてイノベーションが起こり、社会課題を解決するような価値の創造ができること。
D&I推進は決して弱者の保護策ではなく、企業として勝ちに行くための施策であると理解し、この共通認識を組織内で徹底することが重要です。

次に、皆さんは「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」という概念をご存知でしょうか。人口ボーナス期はその国の人口増加が経済発展に大きく寄与する時期のことで、日本は1960~90年代にその時期を迎えていました。それ以降は少子高齢化によって労働人口が減少し、経済成長が鈍化する人口オーナス期に突入しています。
人口オーナス期に低迷を続けるか再浮上するかは、二つのポイントにかかっています。一つは、働き方や労働環境を整えることで労働に参画できなかった女性・障がい者・介護者などを活用し、「現在の」労働力を確保すること。もう一つは、少子化対策によって「未来の」労働力を確保することです。
少子化対策に関して興味深いデータがあります。厚生労働省「第14回21世紀成年者横断調査」(2015)によると、第一子が産まれた時に夫の家事・育児参画が少なかった家庭では、第二子以降が産まれていないという明確な相関関係があることが分かっています。つまり、女性活躍と少子化対策の双方において真に有効な対策は、「男性の働き方改革」と言えるのではないでしょうか。

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男性の育児参画、なぜ「休業」まで必要? 経営層・管理職への説得はこうすると失敗する

小室:
男性の育児参画が重要であることは分かっていても、休業までする必要があるのかと疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、男性の育休には子どもと妻、二人の命がかかっていると知ったらどうでしょうか。
産後女性の死因の一位は産後うつによる自殺です。その原因となるホルモンバランスの乱れや精神的な不調は産後2週間~1カ月がピークとされ、これはまとまった睡眠と日光浴によって軽減されることが分かっています。この期間に夫が育休を取り、妻が遠慮せずに育児を任せられる状況をつくることが、産後うつによる自殺や幼児虐待を防ぐ抜本的対策につながるのです。
また、男性の育児参画は妻の愛情曲線にも大きな影響を与えます。愛情曲線とは、女性のライフステージごとの愛情の分配先の変化を表したグラフのことです。女性は結婚直後は夫への愛情がトップですが、産後は子どもがトップになり、夫への愛情はぐっと下がるのが一般的です。特に産後すぐの時期に感情を共有できたかどうかで夫婦の愛情度には差がつき、その差は一生埋まりません。こうした事実を経営層がきちんと理解し、従業員に育休取得の必要性を説いていくことが重要です。

「女性の愛情曲線」東京都生活文化局 都民生活部 東京ウィメンズプラザホームページより抜粋
「女性の愛情曲線」東京都生活文化局 都民生活部 東京ウィメンズプラザホームページより抜粋

近年の男性新入社員の約8割は、育休取得を希望しているというデータもあります。若者の希望を叶えられる職場や地域には必然的に人が集まり、今後は男性育休が企業の人材獲得や地方創生のカギを握るのではないでしょうか。

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法改正に対応して取り組むべきことの全体像・優先順位は?

小室
最低限やっていただきたいアクションは次の4つです。

1.周知義務を果たすためのインセンティブ設計
2.雇用環境整備義務を果たすための研修・相談窓口の整備、
  トップメッセージ動画作成
3.ハラスメント防止措置
4.就業規則への反映

そもそも「育休・時短勤務では成果が出せない」「人が抜けると困る」という不安を解消するためには、常日頃から誰が休んでも問題なく回る職場づくりが最も重要です。この不安に向き合わないまま放置した結果、「休んだ人はマイナスの処遇を受けるべき」「昇進すべきではない」といった風潮が生まれ、これまで幾多の女性活躍を阻むマミートラックが起きてきました。そして、今後はこの問題が男性側にも起きる可能性があります。これを防ぐためには、時間外勤務を前提としない業務体制、仕事の属人化とアンコンシャスバイアスの解消といった課題に優先的に取り組むことが重要です。

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女性活躍に成功している企業に共通している取り組みは?

小室
最後に、弊社がコンサルティングを行った事例をご紹介します。ある企業では「関係の質(心理的安全性)」をテーマに掲げ、「朝夜メール」などの取り組みを行いました。その結果、残業時間が75%削減し、男性従業員の育休取得率は23%から72%へと大きく飛躍。若い男性従業員の中には「残業が減って家事を手伝うようになり、妻に喜ばれたことで仕事のモチベーションが向上した」という声もあり、これには経営層も強い興味を示していました。
この企業が実施した「朝夜メール」は、その日の仕事予定を朝メールで上司などと共有し、その結果についても夜メールで共有するという取り組みです。終わらなかった仕事があれば要因を振り返り、次第に自律的な時間の使い方が身に付くことで、残業削減や短い時間で成果を出す働き方につながっていきます

ここまで多数の取り組みを紹介してきましたが、男性育休の推進があらゆる信頼の好循環を生み、日本社会の課題を解決していく可能性を秘めているとご理解いただけたのではないでしょうか。
男性育休・女性活躍を経営戦略の一つとして捉え、かつての成功にしがみつかず、人口ボーナス山から人口オーナス山という新しい山へと飛び移っていく。勝てる組織と充実した人生をつくることで、イノベーションを起こせる企業・日本・家庭をつくっていけたらと思っています。


さらにこの他にも、セミナーの中で人口ボーナス期・オーナス期の違いにみる「経営層に必ず刺さる変革の必要性」、「経営層・管理職への説得で失敗しやすい点」や「男性育休に関するハラスメント問題」などについて、幅広くお話しいただきました。

オンラインセミナー:アーカイブ視聴申込み(受付終了)
※申込み締切:2022年1月20日(木) 12:00
※アーカイブ配信の視聴は2022年1月20日(木)までとなります。


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